この記事のポイント
咳やくしゃみにより、お腹に力が入ることで尿が漏れるという腹圧性尿失禁は、その原因の大半が「尿道」をしめる骨盤底筋という筋肉がゆるんでおこります。
その対策としては、骨盤底筋訓練により筋肉を強くする、薬により尿道をしめる、あるいは手術などがあります。
骨盤底筋訓練とは、尿道をしめる働きを持つ骨盤底筋群を自分で鍛えることを言います。骨盤底筋訓練は自分でできる腹圧性尿失禁の治療方法です。
3カ月を目安にきちんと行うと、3人中2人には効果がみられますが、この運動は治っても続けていく必要があります。
尿道や腟、肛門をしめる作用を持つ薬物を投与することにより、尿失禁を治療します。ただし、人によっては動悸や手指のふるえなどの副作用が見られることもありますが、徐々に増量すれば慣れてしまうことも多いと言われています。
薬の投与によって症状はある程度緩和されますが、根本的な治療ではありません。骨盤底筋訓練の補助的な治療法と考えましょう。この薬の使用については医師の診断と処方せんが必要です。
手術療法は、骨盤底筋訓練や薬で十分な効果が得られなかった場合に勧められます。手術には、尿道が下がらないように吊り上げる方法などがあります。
我慢できずに漏れるという切迫性尿失禁の治療としては、薬物投与と膀胱訓練があります。また、我慢しやすいようにする骨盤底筋訓練も有効と言われています。
薬物療法には、膀胱の勝手な収縮を抑える薬がよく使われます。副作用としては唾液が減って口が乾いたり、便秘になることがあります。また効きすぎると尿が出にくくなるケースもあります。薬物投与には、医師の処方が必要です。
膀胱訓練とは、トイレに行きたくなっても、すぐにトイレにかけ込まないで我慢する訓練です。はじめのうちは、5分から15分と徐々に我慢の時間をのばしていきます。薬物療法との併用にすると効果的です。治療効果については、200ml以上ためられるようになれば、排尿を自分の意志でコントロールできるようになったと言えるでしょう。
女性であれば腟、男性はペニス(尿道)を、肛門と一緒に締めたり、ゆるめたりして尿の出口の筋肉である骨盤底筋を鍛えます。
膀胱は、比較的伸び縮みできる袋です。尿漏れを心配するあまり、早め早めにトイレに行き続けていると、習慣的になり、膀胱はだんだん小さくなって尿がためにくくなります。逆に我慢すると膀胱は広がります。
尿意は、波のように寄せたり引いたりしながら、だんだん強くなります。尿意をなるべく我慢し、何度目か尿意が寄せたところで急がず、我慢しながらトイレへ行くようにします。これを毎日繰り返すと、膀胱に尿を少しずつためられるようになります。
はじめのうちは、尿意が来ても、5分から15分と徐々に我慢の時間を延ばしていきます。1回の排尿量として200ml~400mlの量をためられるまで訓練を続けます。200ml以上ためられるようになれば、排尿を自分の意志でコントロールできるようになったと言えるでしょう。
膀胱訓練のためには体重1kgあたり20~25ml程度の水分を摂取します。尿の色で判断すると、レモンイエロー色が目安となります。そして、排尿間隔を少しずつ延ばすよう心がけます。
また、尿を我慢できるようになるためには、尿道をしめる筋肉である骨盤底筋を強くしなくてはいけません。女性であれば腟、男性はペニス(尿道)を肛門と一緒に締めたり緩めたりする骨盤底筋訓練も同時に行うことを勧めます。
くしゃみや咳をした時、笑ったり運動した時などに、思わず下着を濡らしてしまった…。トイレに間に合わずモラしてしまった…。成人女性のおよそ3人に1人が、このような尿失禁の経験を持っていると言われています。尿失禁の原因は様々ですが、ここでは骨盤底筋群(子宮や膀胱等を支えている筋肉)のゆるみを改善する、骨盤底筋体操をご紹介します。お腹に力を入れずに、肛門・膣・尿道をしめる簡単な体操で、1日5分程度を数回、3ヶ月を目安にきちんと行えば、3人中2人には効果が実感できます。
あお向けの姿勢…朝晩布団の中で
足を肩幅に開いてひざを立てます。体の力を抜き、肛門と膣をしめ、しめたまま5つ数えます。この動作をできるだけ繰り返します。
四つんばいの姿勢…新聞を床に広げて読む時などに
床にひざをつき、ひじを立ててあごを支えます。この姿勢で肛門と膣をゆっくりしめます。しめたままで5つ数え、またしめ直します。
机を支えにした姿勢…キッチンや職場の机で
手足を肩幅に開いて立ち、両手を机にのせます。全体重を腕にかけて、背中をまっすぐに伸ばし、顔を上げます。肩とお腹の力を抜いて、肛門と膣をしめます。
座った姿勢…バスや電車に乗っている時、家でテレビを見ている時に
足を床につけて肩幅に開き、背中をまっすぐに伸ばし、顔を上げます。肩の力を抜き、お腹を動かさず、力を入れないようにして、ゆっくり肛門と膣をしめます。
溢流性尿失禁とは、尿を出しきることができないために、膀胱に残った尿が溢れるように漏れてくる状態です。その対処法は、尿が出ない原因を取り除く治療と、残尿をなくす治療があります。
尿を出し切ることができない原因には、尿道が狭かったり、もしくは神経の損傷で尿道が開かないことが考えられます。これらの原因を治療することができれば溢流性尿失禁も治療できます。前立腺肥大のケースであれば、薬の投与や大きくなった前立腺を削る治療が有効です。泌尿器科で専門家に診断してもらいましょう。
膀胱に残った尿のために溢流性(いつりゅうせい)尿失禁が起きるということは、対処法として残尿を減らすことができれば尿失禁も治療できます。残尿を減らすためには、尿を出しやすくする薬が投与されます。
これらの治療をして、どうしても残尿がある場合は、状態によって一日に1回~6回程度の割合で定期的に柔らかい管(カテーテル)を尿道から膀胱に入れて、そのつど尿を取り除く「導尿法」を行います。病院で指導を受けて、日常生活の中で自分で導尿を繰り返し行います。これを「自己導尿」と言います。自分で導尿ができない時は、家族の人が行うこともあります。それができない場合は、管を入れたままにすることもあります。これらは医療機関で指導を受けて行います。
コンチネンスジャパン株式会社 専務取締役
NPO法人日本コンチネンス協会 名誉会長
西村かおる先生監修