【記事執筆】
玉井 顯(たまい あきら)先生
医療法人敦賀温泉病院 理事長・院長 がんばらない介護生活を考える会 賛同人
初めて認知症と向き合う方やご家族の方は、さまざまな不安や心配で戸惑うことばかりかと思います。でも、認知症についての正しい知識があれば、視野が広がり、気持ちに余裕が生まれます。ここでは認知症についてもっと詳しく知りたい方に向けて、知っていただきたい基礎知識をお届けします。
認知症は、誰もがかかりうる脳の病気です。ひとつの病気ではなく、さまざまな病気が原因となって認知症となります。
いちばん多いのはアルツハイマー型認知症で全体の50~60%とも70%とも言われています。アルツハイマー型認知症は脳の神経細胞が壊れることから起こります。パーキンソン病の仲間であるレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症も同様です。このほかに、脳梗塞や脳出血など血管障害によって起こる血管性認知症などもあります。
認知症は脳のどこが障害を受けているかによって、いろいろな症状が出てきます。
アルツハイマー型認知症では、海馬から側頭葉を通って前頭葉に戻ってくる記憶のネットワークがダメージを受けるので、人の名前が思い出せない、自分でしまったものの場所を思い出せないなどの記憶障害が現れます。
前頭側頭型認知症は、脳のなかの前頭葉と側頭葉の神経細胞が少しずつ壊れていくことによって、いろいろな症状が出てくる認知症です。前頭葉の障害では段取りが悪くなり、料理が苦手になります。また側頭葉の障害では、道具を使うこと(レンジの使い方やネクタイの締め方など)が苦手になり、道に迷うことも多くなります。脳のコントロールセンターである前頭葉が損傷を受けるため、何事にも意欲を失い、感情の制御ができずに怒りっぽくなり、勝手にモノを持ってきてしまうなど反社会的な行動をとるようになります。
レビー小体型認知症の場合は、運動機能に関わる神経が損なわれるので、手のふるえや歩幅が極端に狭くなり、動作の開始が遅くなるなどの症状(パーキンソン症状)が現れ、転倒しやすい認知症と言われています。睡眠と覚醒のリズムが乱れて、夜間に大声を出したり、歩き回ったりする場合もあります。また注意力や感情の変化、「幻視」などが起こります。他にも、立ちくらみ、便秘、頻尿、尿失禁などの自律神経症状が出る場合も多く、脳の病気というより、全身の病気といえます。
脳血管性認知症の場合は、意欲低下や自発性の低下、感情のコントロールがうまくいかず、涙もろくなったりします。またできることとできないことがはっきりしていることが特徴です。
【玉井 顯(たまい あきら)先生プロフィール】
医療法人敦賀温泉病院理事長・院長、がんばらない介護生活を考える会賛同人。
金沢医科大学病院神経科精神科講師を経て、福井県敦賀市で、敦賀温泉病院を開設、2009年に認知症疾患医療センターの指定を受ける。
日本老年精神医学会専門医・指導医認定、日本認知症学会専門医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医認定。