その1

認知症の方の排泄ケアのポイント

玉井 顯先生

【記事執筆】玉井 顯(たまい あきら)先生

医療法人敦賀温泉病院 理事長・院長
がんばらない介護生活を考える会 賛同人

高齢になると、認知症の有無に関わらず、足腰が弱り、動作が緩慢(かんまん)になることなどから尿失禁が起きる割合が高くなっていきます。さらに、認知症が進むと、「トイレの場所や使い方がわからない」「服の着脱が難しくなる」に始まって、「尿意や便意を感じなくなる」など、排泄行為自体を理解できない場合もあり、排泄のトラブルがますます増えてしまいます。
排泄に関してよくあるトラブルについて、ご本人のプライドを守りながら、介護の負担を軽くする対応策をご紹介します。

トイレに間に合わない

考えられる原因

  • 尿意や便意を感じるのが遅くなっている
  • 日常の生活動作に時間がかかる
  • 服の着脱が難しくなる

対 策

  • トイレへの通り道を片付けて障害物をなくし、通路に手すりをつける
  • そわそわする、うろうろし始めるなど、トイレに行きたいサインを見つけたら、トイレに誘導する
  • 数日間、排泄日記をつけ、1日の排泄パターンをつかみ、余裕をもってトイレに誘導する
  • トイレでさっと下ろせるように、ウエストがゴム状で上げ下げしやすい下着や服を着てもらう
  • 日中は、ふだんの下着に尿取りパッドをつける、または下着感覚で脱ぎ着できる紙パンツを使用する
  • 夜間は吸水量の多い紙パンツや紙おむつを使用する

トイレではない場所で用を足す

トイレのそばできょろきょろしているようす

考えられる原因

  • トイレの場所がわからない
  • 玄関や浴室などをトイレと間違える
  • 排便はトイレで行うものだということがわからない
  • 便器であることがわからない
  • 幻視(トイレの前に人が並んでいるなど)

対 策

  • リビングや寝室、廊下などに「トイレはこちら→」と誘導する貼り紙をし、トイレのドアにも大きく「トイレ」と書いた紙を貼る。(「トイレ」という言葉を使わない方には「お手洗い」「便所」などご本人が使っていた言葉で表示する)
  • 夜中もトイレへの通路は電気をつけて明るくしておく
  • トイレのドアを少し開けて便器が見えるようにする
  • 朝食後など、時間を見計らってトイレに誘導する

汚れた下着や衣類をしまいこむ

タンスに下着をしまう様子

考えられる原因

  • 失敗したことを知られたくない

対 策

  • 隠しやすい場所をあらかじめ用意しておく
  • 叱ったりせずに、そっと持ち出して洗濯する

尿取りパッドをいやがる

考えられる原因

  • 自分でうまくつけられない
  • 違和感があり不快
  • 何のためにつけるのかわからない

対 策

  • 薄手で尿とりパッド以上に吸収力のある紙パンツを使用する
  • 「オムツ」と言わず、「紙パンツ」「使い捨てできる下着」として薦める

オムツをはずしてしまう、つけることをいやがる

考えられる原因

  • 恥ずかしい、情けないなど、オムツを使うことに抵抗がある。
  • むれやかぶれが不快
  • 濡れると気持ちが悪い

対 策

  • 数日間排泄記録をつけてみて、1日の排泄パターンをつかみ、濡れたらできるだけ早く取り替えるようにする
  • 下着感覚で脱ぎ着できる薄型の紙パンツと尿取りパッドを併用し、パッドをこまめに取り替える
  • パッドを嫌がる場合は、薄手で尿とりパッド以上に吸収力のある紙パンツを使用する
  • 「オムツ」と言わず、「紙パンツ」「使い捨てできる下着」として薦める

パッドやオムツを便器に流してしまう

考えられる原因

  • 濡れたパッドやオムツに不快さを感じている
  • トイレに流すと詰まるということが理解できない

対 策

  • トイレにかごやバケツを用意し、そこに捨ててもらうように貼り紙をして、トイレに誘導するたびに何度も説明し、声かけをする
  • 日中家族がいない場合は、トイレのタンクの水量を少量に調節して流れないようにする
  • パッドやオムツではなく、下着感覚で脱ぎ着できる薄型の紙パンツを使用し、下着として認識してもらう

認知症の方の排泄ケアはとても大切

介護者と被介護者がよりそう様子

 

認知症が進んでも、羞恥心とプライドは失われることがありません。どんな場合も叱ったり、自分で片付けさせたりなどはせず、ご本人ができることを大事にしていくことが大切です。
また、介護をしている方も、がんばり過ぎないことが大切です。
認知症の方の排泄のケアはとても大変ですが、適切なケアを行なうことによって、快適な生活を送ることにつながるでしょう。

【玉井 顯(たまい あきら)先生プロフィール】

医療法人敦賀温泉病院理事長・院長、がんばらない介護生活を考える会賛同人。
金沢医科大学病院神経科精神科講師を経て、福井県敦賀市で、敦賀温泉病院を開設、2009年に認知症疾患医療センターの指定を受ける。
日本老年精神医学会専門医・指導医認定、日本認知症学会専門医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医認定。